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蓮と岩屋と鰻と夢絵師 in 埼玉&山梨⑤【竹中英太郎記念館】心をかき乱す妖美な作品の数々

旅行
竹中英太郎記念館の館内

ワタシたちには、夏の山梨旅行で絶対に外せない観光スポットがいくつかある。
そのひとつが「竹中英太郎記念館」だ。もちろん今回もしっかりと予約して記念館に向かってみると…。

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記念館に入った途端に夢の世界へ

「竹中英太郎記念館」は小高い丘の上にある。
そばには古い歴史を誇る湯村温泉郷が広がり、その一角にひっそりと佇んでいる。

「季節のお宿 ひみね」と同じように、門から記念館へと続く小道はもはや見慣れた景色だ。
そして、記念館のインターホンを押すと、笑顔で迎えてくれる館長の竹中ゆかりさんも…。
年に1回しかお会いする機会がないが、紫さんはワタシだけでなく、Kのこともしっかりと覚えてくれていた。

「竹中英太郎記念館」に続く道。

ワタシが竹中英太郎の存在を知ったのは1989年頃だ。竹中英太郎の展覧会を紹介する、ある新聞記事がきっかけだった。実はそのときの記事の切り抜きは今も家に残っている。
それからしばらくして、「竹中英太郎」という言葉だけが記憶の片隅になんとなく残っていたとき、甲府の町を歩いている最中にたまたま「竹中英太郎記念館」のチラシを発見。一人旅の最中だったこともあり、「これは絶対に行かないと!」とその場の勢いで記念館に向かった覚えがある。

竹中英太郎(右)と息子の竹中労。

以後、記念館で竹中英太郎の作品に触れるたび、ワタシはその迫力に圧倒されてばかりいる。
ワタシは推理小説の挿絵から竹中英太郎の世界に入ったクチなのだが、挿絵以外の作品も非常に印象深い。淡い色彩が施され、幻想的な雰囲気が増しているからなのかもしれない。

…個人的な思い出はこのへんで止めておいて、記念館の紹介をしていこう。
館内に入ると、小さなテーブルセットを囲むようにズラリと並ぶ竹中英太郎の作品が目に入ってくる。
紫さんによると、2階に展示されている絵も含めて、ときどき展示物を替えているとか。Kにとっては、去年見かけなかった「赤のディートリッヒ」が今回は強い印象を残したようだ。
ちなみに、ワタシのお気に入りは2パターンある「沖縄の舞姫」。淡い色彩の中で凛とした表情を浮かべている女性が好きなのだ。

また、1階にはさまざまな資料が並んでいて、実際に手に取って見ることもできる。
けっこうな量の資料があり、中には江戸川乱歩や横溝正史が活躍し、竹中英太郎が挿絵を描いた雑誌「新青年」も! これらを眺めているだけでも楽しいし、記念館を訪れる価値があると思う。

左が「赤のディートリッヒ」。
右2点がワタシの好きな「沖縄の舞姫」。
展示物には昭和初期の「新青年」も!

1階に並ぶ作品を見ているだけでも白昼夢の中に迷い込んだような感覚に囚われるが、これはまだまだ竹中英太郎の作品のほんの一部。2階にもこれまた心を揺さぶられる世界が待っている。

2階でも妖美な空気にどっぷりと浸る

竹中英太郎や、その息子であり、反骨のルポライターとして知られた竹中労のプロフィールを読みながら階段を上ると、いきなり目に飛び込んでくるのが「哀しみのマリア」だ。
「哀しみのマリア」もワタシが好きな作品のひとつだ。残酷なシーンを目の前にした少女の表情がなんとも言えなくて…。呆然とも、空虚とも言えるような少女の表情は忘れがたいものがある。

また、2階には竹中労に関する資料とともに、「熟れた果実」や「夢を吐く女」といった作品も並んでいる。
「哀しみのマリア」を含むこれらの絵は、筆を折っていた竹中英太郎が息子のために描いた作品とのことだ。

右の大きな絵が「哀しみのマリア」。
「熟れた果実」と「夢を吐く女」(右)。

続いて奥の小部屋に入ると、そこには竹中英太郎が挿絵画家として残した作品群が!
こちらには挿絵が掲載された当時の雑誌ととともに、今も残る挿絵の原画が所狭しと並んでいる。
線のはっきりした絵だけではない。抽象的な絵や水墨画のような絵、モダンな雰囲気のものから幻想的なもの、猟奇的なものまで、作品の雰囲気をしっかりと拾い上げている。1人でこれだけ違う世界を描きわけているなんて、とても信じられない。

中でも個人的に好きなのが、横溝正史の「鬼火」と江戸川乱歩の「盲獣」の挿絵だ。
特に「鬼火」は何度見ても、首筋をそっと撫でられるような感覚が走ってしまう。

当時の雑誌とともに原画が並ぶ。
横溝正史の「鬼火」。
江戸川乱歩の「盲獣」。

こちらに掲載している写真を見ると、もしかしたら色彩に乏しい印象を抱くかもしれない。
しかし、決して広くはないスペースには白と黒の陰影のみで彩られた、果てしない世界が広がっている。この部屋は本当に飽きることがない。

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館長さんとののんびりトークで現実世界へ

2階から下りる階段には、竹中労が携わった映画「祇園祭」のパンフレットで使われるはずだったイメージ画が飾られている。

映画「祇園祭」にて竹中労はプロデューサーという重要な役割を担っていたが、途中でその役から外されることになる。
その結果、パンフレットに使われるはずだった竹中英太郎のイメージ画はお蔵入りとなってしまったが、記念館ができたおかげで今はこうして見られるようになっている。

映画「祇園祭」の未発表イメージ画。
「鬼火」の挿絵を立体化した人形。
竹中英太郎が使っていた絵の具。

1階に戻ったあとは、コーヒーをいただきながら館長の紫さんとのんびりトーク。ほんわかした雰囲気の紫さんと話していると、少しずつ現実世界に戻っていくような気分になってくる。

現在、紫さんは竹中英太郎の作品をあしらったグッズを考えているとのことで、ワタシとKも一緒にアイデア出しを手伝うことに。
結果的にワタシが出した案よりもKの案のほうが面白かった。

また、紫さんは今、昭和4年の「新青年」を探しているとか。
ワタシとKもスマホで探してみたものの、さすがに100年近く前の雑誌なので、写真を見つけるのがやっと。
いつか「例の『新青年』、見つけましたよ!」という知らせを届けられればと思っているが、どうなることやら…。

そんな話をあれこれとしているうちに、あっという間に1時間ほど経ってしまっていた。

「竹中英太郎記念館」を訪れるのは、もう何回目になるだろう。
Kと一緒に来たのは今回が3回目で、それ以前にワタシ1人で少なくとも2回は訪れている。
それでも今、ワタシは「竹中英太郎記念館」に来年も必ず伺おうと思ってる。
妖幻にして繊細な竹中英太郎の作品と、それらの作品を守りつづける、ほんのりと柔らかい雰囲気の館長さん。その2つの異なる世界が自然と溶け合った空間には、毎年でも来たくなるような空気が漂っている。ワタシは常々そう思っている。

「蓮と岩屋と鰻と夢絵師 in 埼玉&山梨」一覧

①【宗福寺】見頃を迎えたかえる寺の蓮池を見てみたい!
②【割烹 坂本屋】肉厚ふわふわのうなぎで夏バテ防止!
③【季節のお宿 ひみね】食事のメニューがパワーアップ!
④【Gelateria ROTONDO 甲斐黒駒店】おいしいジェラートで季節を味わって
⑤【竹中英太郎記念館】心をかき乱す妖美な作品の数々
⑥【恵林寺】

⑦【甲州ほうとう 百間】

(お出かけ日:2025年7月25日~7月26日)
※一部を除き敬称略させていただきます。
※各情報は2025年9月時点のものです。
※館内の写真は許可をいただいて撮影しています。
(C)2006 湯村の杜 竹中英太郎記念館 金子 紫

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