当初、ワタシたちは今回の旅行で、秩父では定宿にしている「民宿すぎの子」に泊まるつもりでいた。
しかし、「民宿すぎの子」はメンテナンスのため泊まれず。おまけに、ワタシたちが秩父に行く日にイベントがあるようで、市街地の宿泊施設はほぼ満室状態だった。
そんなとき、ワタシはあることをふと思い出した。かつて秩父のお宿を探していたとき、気になった旅館があったことを。それが「霊泉旅館 不動の湯」(以下、不動の湯)だ。
川原の斜面に立つ「不動の湯」
いろいろ調べてみたところ、「不動の湯」はいかにも鄙びた雰囲気の旅館だ。しかし、ワタシはこういうお宿が大好きだし、Kもかなり興味を惹かれた様子で、「ちょっとパラダイス臭もするけど、好奇心に勝てないw」というメッセージが届いた。おまけに、ロウバイ園のある宝登山まで車で20分程度と地理的な条件もいい! ならば…ということでワタシはすぐさま「不動の湯」に予約した。
ちなみに「パラダイス」とはテレビ番組「探偵!ナイトスクープ」にて、桂小枝師匠の定番ネタだったあのシリーズだ。実はワタシも「不動の湯」にそれらしき空気を感じ取っていた。
一応、お宿のホームページはあるものの、かなり古い感じがする。そこでネットで調べるが、情報がかなり少ない。とはいえ、それもまたKの言うように好奇心をくすぐるポイントだった。
そして当日、「不動の湯」の近くまで来たときのこと。お宿の前まで行ける道は南北に2本あるのだが、ワタシたちは北側の道からお宿へ向かう。事前にマップアプリの某先生のストリートビューを確認すると、南側の道はかなり細そうだったからだ。あとで実際に歩いてみると車が通るのはかなり難しそうなところもあった。
一方、北側の道もそこそこ細いものの、車が通れないほどではない。また、道沿いにはお宿の駐車場もあるので、車の場合は北側の道から向かうほうが正解なのだろう。
ワタシたちが「不動の湯」に到着したのは15時頃。このとき、お宿から近い第1駐車場がまさかの満車状態!? 土曜日や祝日前でもないのに混んでいるのか…と思いながら、ワタシたちは近くにある第2駐車場に車を停めた。
事前に調べたところによると、「不動の湯」は横瀬川の川原の斜面に立っている、らしい。そのため、道を下った先にお宿があるようだ、という予備知識はあったのだが実感はできていなかった。
しかし、お宿の前まで来て、その意味がよくわかった。塀の上にある「不動の湯」の看板を見つけたものの、その向こうに建物がない。代わりに横瀬川の川原のほうへ下る道が続き、その先に緩やかそうで意外と急な石段が続いている。その石段を下りた先にお宿の玄関があった。
石段を下りた先にあるお宿の玄関は昔ながらのガラス戸で、力強い書体で「不動の湯」の文字が記されていた。こちらの玄関を見た瞬間、ワタシは原作・横溝正史、監督・市川崑の金田一耕助シリーズの映画作品を思い出してしまった。
この玄関の周辺を見ても、お宿の造りがかなり複雑そうなのがわかった。とはいえ、まだチェックイン前。まずはチェックインをすませ、そのうえでいろいろと回ってみることにした。
【霊泉旅館 不動の湯】基本情報
霊泉旅館 不動の湯
■住所:埼玉県秩父市下山田
243-2
■宿泊費:
1泊2食つき 8,800円~11,000円
※税込価格 ※観光サイト調べ
■部屋数:9室
■温泉:アルカリ鉱泉
■駐車場:あり
■電話:0494-23-1126
なお、「不動の湯」の予約は電話かファックスのみで可能だ。
電話で予約した際、素泊まりから3食つきまでいろいろあると教えていただき、ワタシは1泊2食(夕食と朝食)つきでお願いしている。その際の宿泊費は1人9,900円(税込)だった。日曜日に泊まったときの宿泊費だが参考までに。
43代 式守伊之助とまさかの同宿!
ガラス戸を開けて中に入ると、目の前には簡素な帳場があった。それよりも気になったのが、帳場の周りに相撲に関するアイテムが妙に多いことだ。
そこでチェックインの際、おかみさんに「相撲がお好きなんですか?」を聞いてみる。すると大好きとのことで、一月場所や日本大相撲トーナメントなど、今年に入ってからの相撲の話題で大盛り上がりに。
さらに、おかみさんから「今、伊之助さんがいらっしゃってるんですよ」との言葉が。……イノスケ? 一瞬、私はそれが43代 式守伊之助と結びつかなかった。
その後、おかみさんから伊之助についていろいろと話を伺う。伊之助はとても気さくな方で、いつも筆を持参しているので色紙に一筆もいただけるし、記念撮影もしていただけるという。ワタシがさすがに色紙は用意していないと伝えると、「大丈夫ですよ! 何枚かありますから」と色紙をいただけることに。
色紙に一筆いただく際、リクエストした文字も書いていただけるとのことで、おかみさんに尋ねられたワタシはちょっと考えて「縁」の文字を選んだ。偶然の出会いから「縁」ができた、という意味を込めたつもりで、ワタシとしてはなかなかいいセレクトじゃないかと密かに自画自賛していたのだが、Kやおかみさんの反応はイマイチだった。
チェックインをすませ、部屋に案内していただいたところでワタシたちはひと休み。
その最中、おかみさんが部屋にやってきて、「伊之助さんとの写真撮影、よろしければいかがですか?」と声をかけていただく。このときKは「できれば明日…」ということで不参加だったが、ワタシはお言葉に甘えることに。
おかみさんのあとに続き、ある部屋まで案内されると、そちらでは7~8人くらいで宴会の真っ最中。すでに顔が赤い人もいて、まさに「宴もたけなわ」という雰囲気だ。
にもかかわらず伊之助はおかみさんに応じ、同行していた幕下行司の木村桜乃助も連れてお宿の看板のほうへ移動。
看板の前に立つと伊之助はわざわざワタシを真ん中に立たせてくれたうえで記念撮影していただく。こちらが宴会中にお邪魔したにもかかわらず嫌な顔ひとつしないどころかとても優しい方で、ワタシは恐縮することしきりだった。
その後、ワタシがKを残してお宿の周辺を散歩している間に、部屋に伊之助の色紙が届いていた。こちらの色紙、大切にしますので!!
古くても居心地のよさは抜群
「不動の湯」は建物がかなり古く、設備も古めかしい。たとえば風が強い日になると窓がガタピシと揺れそうな…そんなイメージだ。昭和40年代生まれのワタシはこういった建物は懐かしく思うが、「不動の湯」のようなお宿は最近減ったような気がする。
ただし、建物は古くても掃除は行き届いているし、寒い時間帯には廊下にストーブが焚かれるので居心地がいい。むしろ、のんびりできる雰囲気に満ちていた。
とはいえ、お宿の中の構造はかなり複雑だ。何度が増築しているためだろうし、川原の斜面に各棟を建てているからか、それぞれの建物の高さが若干違う。おまけに別館もあるので、1泊したくらいではその全容を把握できなかった。
実際、案内された部屋についてワタシは「階段を上ってすぐそば」くらいの軽い印象を抱いていたのだが、共用のトイレに行って部屋に戻ろうとしたとき、階段を余計に上って他のエリアに行きそうになってしまった。
部屋の造りも昔ながらの和室で素朴そのもの。ゆったりとリラックスした時間を過ごすことができた。
部屋には座卓やエアコン、テレビなどがしっかり備わっているので、特に困ることはなし。ちなみに、布団はあらかじめ敷かれていた。
「不動の湯」は荒川の支流である横瀬川がすぐそばを流れている。とはいっても、横瀬川の流れは緩やかで、川のせせらぎはまったく気にならなかった。
部屋でひと息ついたあと、仮眠を取るKを残し、ワタシはお宿周辺の散歩へ。最終目的地は「恒持神社」にしようとなんとなく思っていたが、基本的には行き当たりばったりのつもりだった。

お宿の裏に「開運不動尊」が鎮座!
ワタシが散歩から帰ってきたのは17時頃。まだうっすらと明るさが残る時間帯だ。このとき、事前の情報収集で「横瀬川の川原に下りられる」という一文を見たことを思い出す。
せっかくだから行ってみよう…と思ったのだが、お宿の玄関から川原のほうへ下りる通路は少々薄暗い。さらに、川原へ続く通路の片側は急な斜面で、この段階でちょっとした冒険気分だった。
お宿の玄関から歩くことわずか1~2分ほどで、先のほうに石段や石灯籠が見えてくる。さらに、岩や木立があってわかりづらいが、その向こうには何やら大きなものが…?
近づいてみると、それはなんと5mほどもある不動明王だった。
こちらは「開運不動尊」と名づけられていて、翌朝おかみさんに伺ったところによるとコンクリート製なのだとか。「不動の湯」のご先祖であり、もともと石工だったおじいさんが型をこしらえ、そこにコンクリートを流し込んで不動尊を作ったという。色のついている部分はあとから塗装したのではなく、コンクリートにあらかじめ塗料を混ぜたらしい。
さらに「開運不動尊」のすぐ横には石段があり、上のほうへと続いている。
石段を上った先はちょっとした広場になっていて、そちらには不動堂やお稲荷さま、お地蔵さまなどが並んでいた。数は少なそうだが、今もときおり参拝に訪れる人がいるようだった。
ここでワタシの散策(冒険)は終わらない。なぜなら、まだ横瀬川の川原まで下りていないからだ。
ワタシは不動堂の周りを歩き、川原へ続いていそうな道を発見。そのまま下りてみる。
そしてついにワタシは川原に到達!
川原から「不動の湯」を見てみると、まさにお宿のホームページで目にした景色だった。
こちらからだと「不動の湯」の建物が斜面に張り出して建てる懸造りのようになっているのがわかる。お宿の建物に隠れているのでわかりづらいが、対岸の様子から想像するに、お宿の立っている斜面もかなり急なのではないか。これならば、お宿の入り口にあった看板の先に建物が見えなかったのも納得だ。
川原には岸が川に向かって突き出ている部分があり、そこからだとお宿の写真が撮りやすい。ただ、岸が突き出た部分はかなり狭いので、歩く際は途中で滑って川に落ちないように十分注意しよう。
温かくてほっと落ち着く夕食の品々
18時からはお楽しみの夕食だ。夕食は隣の部屋に用意していただき、ワタシたちはそちらへ移動する。
実は「不動の湯」にはうれしい予約特典があり、ホームページにあるサービス券をプリントアウトして持っていくと、お酒かジュースを1人1本サービスしていただけるのだ。
お酒は確かビールか日本酒の武甲正宗のどちらかが選べ、ワタシたちはまだ飲んだことのない武甲正宗をお願いした。
まず食卓に並んでいるのは前菜とお造りだ。他には陶板焼きもあり、ワタシたちが席に着いたところで仲居さんに火をつけていただく。
陶板焼きができあがるのを待ちながら、ワタシたちは武甲正宗をちびちび。少々辛口といった味わいだがすっきりと飲みやすく、ワタシたちはのちほど1合お代わりしてしまった。
その間に食卓にはさまざまな料理が並んでいく。ここからは天ぷらや焼き魚、茶碗蒸しなど、できたての料理ばかり。温かい料理を味わってもらおうという心遣いがなんともうれしい。
それにおかみさんや仲居さんが気さくで、気配りも細やか。質問するといろいろと教えていただけたので、それも食事をより楽しい時間にしてくれた。
実は各品を並べていただく際、仲居さんにちょっとしたミスがあった。仲居さんがあまりに焦っていたので、ワタシたちは「大丈夫ですから、気にしないでください」と声をかける。心地いい食事の時間を用意していただいたのだから、感謝こそすれ文句を垂れる気はまったく起こらなかったからだ。
ワタシたちは武甲正宗を飲みながら、親しみを覚える料理をのんびりといただく。
最近、米不足のニュースをほとんど聞かなくなったとはいえ、残すのはもったいないのでごはんは一粒残らずいただいた。Kは「最後にお茶漬けにすればよかった」と言っていたが、面白いところにこだわる人だとワタシは思った。
不動明王が教えてくれた霊泉
食後、ワタシは浴場へ向かう。ワタシが散歩に行っている間に、ひと足先に湯に浸かってきたKによると「熱い。熱すぎるw」とのことなのだが…。本当だろうか。
浴場は建物の中でも端のほうの、一段下がった位置にある。
脱衣所の造りはシンプルで、片隅にはマッサージチェアもあった。ただ、こちらは硬貨の挿入口が塞がれていたので使えないようだ。また、時代を感じるカミソリの自動販売機もあるのだが、こちらは売り切れになっていた。
「不動の湯」はアルカリ鉱泉で、24時間入浴可能なのがうれしい。Kは熱いと言っていたが、ワタシとしてはちょうどいい湯加減だ。いつものようにしばらく浸かり、熱くなったら湯船の縁に腰かけて体を冷まし、涼しくなったらまた浸かり…を何度か繰り返しながら、ゆっくりと入浴した。
その昔、不動明王が夢枕に立って霊泉の湧く場所を示し、そこからあふれる湯の効能が評判になったことから「不動の湯」と名づけられた。こちらの湯にはそんな由来があるそうだ。
ワタシが浴場から戻ったあとはお酒を飲みながら、持参した映画DVDを鑑賞。今回はアル・パチーノ主演の「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」とロバート・デ・ニーロ出演の「フランケンシュタイン」の2本立てだ。ただ、「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」を観終え、「フランケンシュタイン」を観はじめたところでKが撃沈。ワタシは寝る前にもう一度湯に浸かってくるのだった。
親しみを感じずにはいられない「不動の湯」
翌朝は7時30分頃に起床。朝食の前に最後の湯に浸かる。
朝食は納豆や焼き魚、卵焼きやウインナーなど慣れ親しんだおかずが並び、ワタシたちはおいしくいただく。
その後、ワタシたちは10時にチェックアウト。このとき、おかみさんから「開運不動尊」の作られた経緯を教えていただいたことでKも興味を抱き、最後にお参りしてワタシたちはお宿をあとにした。
「不動の湯」での一夜は予想外の出来事もあり、かなり楽しい時間を過ごすことができた。
確かにお宿の設備は古い。しかし、気立てのいいおかみさんや仲居さんの心遣いをはじめ、ほっこりするお宿の雰囲気、温かい食事などはその古さを補って余りある。
旅行から帰ったあと、Kは「おかみさんが好きすぎるのよねw」と話していた。それはワタシも同感だ。秩父札所の午歳総開帳の際にはまた泊まりたいな、とワタシたちは思っている。
「ロウバイよ、我々は帰ってきた! in 埼玉③【坂本屋菓子店】」へ
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(お出かけ日:2026年2月15日~2月16日)
※敬称略させていただきます。
※各情報は2026年3月時点のものです。































































